【医療法人の節税戦略】役員退職金を最大限に活用する「退職金×保険×不動産」の三位一体モデル
「医療法人の利益は増えているけど、配当が出せないから内部留保がどんどん溜まっていく…」
「理事長として引退する時に、最大限に有利な形で退職金を受け取りたいけど、税金が心配だ…」
「医療法人と個人の資産を、税務面で最適化する総合的な戦略はないだろうか?」
もしあなたが今、このような課題や疑問を抱えている医療法人の理事長や経営者であれば、このページは、医療法人特有の税務と、理事長個人の資産形成・相続対策を同時に最適化するための、極めて実践的な戦略を提供するものとなるでしょう。
医療法人は、その公益性から非営利法人としての性格を持ち、株式会社とは異なる独自の税務ルールが存在します。特に、「利益分配(配当)ができない」という特性は、多額の利益が出た際に、その出口戦略を緻密に計画する必要があることを意味します。
そこで鍵となるのが、「役員退職金」 です。そして、この役員退職金を、「法人保険」で効率的に準備し、さらに「不動産」と組み合わせることで、医療法人と理事長個人、双方にとって最大の税務メリットを享受できる**「三位一体モデル」** を構築することが可能です。
この記事では、我々が税理士事務所として、数多くの医療法人の税務と承継をサポートしてきた経験から、役員退職金の「適正額計算」から、その「圧倒的な税制優遇」の仕組み、「法人保険による原資準備」、そして「不動産活用」との合わせ技、さらには「退職給与規程」作成における落とし穴まで、そのすべてを、医療法人の特性に合わせて深く掘り下げて解説していきます。
さあ、医療法人と理事長個人の資産を最大限に守り、円満な承継を実現するための、賢い税務戦略を学びましょう。
医療法人の経営者である理事長は、その「非営利性」という特性ゆえに、株式会社のオーナー経営者とは異なる税務上の課題に直面します。この課題を解決する上で、役員退職金は極めて重要な役割を担います。
医療法人の利益の出口問題:配当ができない特性
医療法人は、医療法の規定により、原則として剰余金の配当(利益分配)ができません。 これは、医療法人の利益が、医療提供体制の維持・向上という公益目的に再投資されるべきである、という考え方に基づいています。
- 株式会社の場合: 利益が出れば、役員報酬として個人に還元したり、配当として株主に分配したり、内部留保としてプールしたり、と多様な選択肢があります。
- 医療法人の場合: 利益が出た場合、基本的に以下の選択肢に限られます。
- 内部留保: 運転資金や将来の設備投資、事業拡大のために貯め込む。しかし、過度な内部留保は税負担を招きます。
- 設備投資: 医療機器の購入、施設の改修・増築など。
- 人件費: 従業員の給与・賞与、福利厚生の充実など。
- 役員報酬・役員賞与: 理事長や役員への報酬・賞与。ただし、株式会社と同様に、定期同額給与や事前確定届出給与の要件があり、期中の柔軟な調整は難しいです。
この「配当ができない」という特性は、特に多額の利益が出た場合に、理事長個人へ、そして最終的に個人資産として円滑に資金を移転する「出口」 が限られることを意味します。そこで、最も有力な「出口」となるのが「役員退職金」なのです。
役員退職金が医療法人にとっての「黄金の出口」である理由
役員退職金は、医療法人と理事長個人の双方にとって、複数の税務上のメリットをもたらすため、「黄金の出口」と評価されます。
① 医療法人側のメリット:多額の損金算入による法人税圧縮
- 理事長の引退時など、多額の退職金を支給する期には、その退職金が丸ごと損金となるため、医療法人の課税所得を大幅に圧縮し、法人税額を大きく減らすことができます。これは、利益の「出口」が限られる医療法人にとって、非常に大きなメリットとなります。
② 理事長個人側のメリット:退職所得の圧倒的な優遇税制
- 役員退職金を受け取る理事長個人にとって、退職金は「退職所得」という特別な所得区分に該当し、極めて有利な税制が適用されます。
- 「退職所得控除」 が勤続年数に応じて大きく設定されており、さらに控除後の金額が「1/2課税」されるため、同じ金額を役員報酬や賞与として受け取る場合と比べて、手取り額が圧倒的に多くなります
- (詳細については、以前の「役員退職金の落としどころ」記事でも解説しましたが、後ほど再確認します。)
③ 相続対策・納税資金の確保
- 理事長が退職金として受け取った現金は、将来の相続税の納税資金として活用できます。医療法人の理事長は、医療機関の不動産や設備、あるいは他の個人資産を多く保有していることが多く、相続税の納税資金確保が課題となりがちです。退職金は、この現預金不足を解消する有効な手段です。
④ 事業承継の円滑化:
- 先代理事長が退職金を受け取って医療法人から資金を退去させることで、後継者はより身軽な状態で経営に専念できます。
このように、医療法人の役員退職金は、法人の利益圧縮、理事長個人の手取り最大化、そして将来の承継・納税資金確保という、複数の目的を同時に達成できる、まさに「三位一体」戦略の核となるものなのです。
役員退職金の「功績倍率」:計算の根拠と税務署に否認されない支給額
役員退職金は多額の損金となるため、税務署は「適正額」であるかを厳しくチェックします。特に、功績倍率の根拠を明確にすることが、否認リスクを回避する上で不可欠です。
功績倍率法の計算と適正額の考え方
医療法人の役員退職金の適正額も、株式会社と同様に、一般的に以下の「功績倍率法」によって算定されます。
役員退職金の適正額 = 最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率
- 最終報酬月額: 退職金支給直前の役員報酬月額。退職金算定のためだけの不自然な増額は避けるべきです。
- 在任年数: 役員として在任した期間。
- 功績倍率: 役員の会社への貢献度や職責の重さを表す数値。この倍率の妥当性が、税務調査で最も注目されます。
一般的な功績倍率の目安(あくまで参考値であり、個別判断が必要です):
- 理事長: 2.5~3.0倍程度(特に功績が大きい場合は3.5倍まで認められるケースも)
- 理事: 2.0~2.5倍程度
- 監事: 1.0~1.5倍程度
税務署に否認されないための「功績倍率の根拠」と対策
税務署が役員退職金を否認する場合、その多くは「功績倍率が過大である」と判断されるケースです。否認されないためには、客観的な根拠を準備することが不可欠です。
① 会社の業績への貢献度:
- 理事長在任期間中の売上高、経常利益、純資産額の推移など、具体的な数値データを示し、理事長のリーダーシップが医療法人の成長にどう貢献したかを説明します。
- 新規事業の立ち上げ、医療機器の導入、診療科目の拡充、地域医療への貢献など、具体的な功績を明確に記述します。
② 職責の重さ:
- 代表権の有無、経営への関与度、診療業務以外の経営管理(人事、経理、設備投資など)への貢献度を具体的に説明します。
③ 同業他社の役員退職金水準との比較:
- 同業種・同規模の医療法人における役員退職金の支給実績に関するデータ(公開されているもの、あるいは統計データなど)を参考に、自社の支給額が著しく高額ではないことを示します。
- ただし、公開データは限られるため、あくまで参考の一つとなります。
④「退職給与規程」の整備と運用:
- 医療法人に「退職給与規程」を整備し、退職金の算定方法(功績倍率法を明記)、支給要件、支給手続きなどを明確に定めておきましょう。
- この規程が、役員退職金が過大でないことを示す重要な証拠となります。
- 規程があれば無制限に高額にできるわけではなく、規程自体が社会通念上妥当であることが求められます。
⑤ 議事録の作成と保管:
- 役員退職金の支給は、社員総会(または理事会)の決議事項です。支給金額、算定根拠、支給理由などを明記した議事録を必ず作成し、会社に保管しておきましょう。
⑥ 税理士による事前チェック:
- 役員退職金支給前に、必ず国際税務に精通した我々のような税理士に相談し、適正額の算定や税務リスクの評価を行ってもらいましょう。我々は、過去の裁決事例や判例なども踏まえ、具体的なアドバイスを提供できます。
【警告】
役員退職金は、高額なだけに税務調査で非常に注目されやすい項目です。適正額の算定と根拠の準備、そして適切な手続きには、細心の注意を払い、必ず専門家の支援を受けてください。
「退職所得控除×分離課税」の威力とは?理事長個人の手取り最大化
役員退職金が「黄金の出口」である最大の理由の一つが、理事長個人が受け取る際の「退職所得」に対する圧倒的な税制優遇です。
退職所得の計算と「圧倒的な手取り額」
退職所得は、他の所得(給与所得、事業所得など)とは全く異なる計算方法で課税されます。
① 退職所得控除の適用:
- まず、退職金から「退職所得控除額」が差し引かれます。この控除額は、勤続年数に応じて大きく設定されています。
- 勤続20年以下: 勤続年数 × 40万円
- 勤続20年超: (20年 × 40万円) + (勤続年数-20年) × 70万円
- 例えば、勤続30年(20年超)の理事長の場合、
(20年×40万円)+((30−20)年×70万円)
=800万円+(10年×70万円)
=800万円+700万円=1,500万円
この理事長が1,500万円までの退職金を受け取る場合、税金はかかりません。
② 1/2課税:
- 退職所得控除を差し引いた後の金額が、さらに1/2にされます。
- 課税退職所得 = (退職金 - 退職所得控除額) × 1/2
- この1/2課税により、実質的な税負担が大幅に軽減されます。
③ 分離課税:
- 退職所得は、他の所得と合算せず、単独で税額が計算される「分離課税」です。これにより、退職金が高額になっても、他の所得の税率に影響を与えずに、退職金そのものに低い税率が適用されます。
【給与・賞与と比較した手取り額の差】
同じ1,000万円を個人が受け取る場合でも、給与や賞与として受け取ると、全額が所得税・住民税・社会保険料の対象となり、多額の税金と社会保険料が差し引かれます。しかし、退職金として受け取れば、上記の優遇税制により、手元に残る現金(手取り額)が圧倒的に多くなるのです。
これが、理事長個人の資産形成において、役員退職金が「最強の節税効果」を持つと言われる所以です。
勤続年数と退職所得控除の注意点
勤続年数のカウント:
役員として在任していた期間が勤続年数となります。個人事業主から医療法人化した場合は、個人事業主としての事業期間も勤続年数に含めることができます(ただし、個人事業廃止時に所得税法上の事業主の退職金を受け取っていない場合に限る)。
短期退職手当等への課税強化(2022年税制改正):
- 勤続年数5年以下の役員・従業員が受け取る退職金のうち、退職所得控除額を超える部分について、1/2課税の適用がなくなるという改正が行われました。
- これは、短期で役員に就任して多額の退職金を受け取る、といった租税回避的な利用を防ぐためのものです。
- 長年医療法人を経営してきた理事長の場合、勤続年数が5年を超えることがほとんどであるため、この改正の影響は受けにくいですが、念のため確認が必要です。
役員退職金の受け取りタイミング
理事長個人にとって、役員退職金は、引退するタイミングで受け取るのが最も税制上優遇されます。
- 「退職」の明確化: 理事長を辞任し、医療法人の経営から完全に退くことが重要です。形式的な辞任だけでなく、実質的に経営への関与がなくなり、役員報酬も受け取らない状態になることが理想的です。
- 他の所得との兼ね合い: 退職所得は分離課税のため、他の所得額に影響されにくいですが、退職する年に他に大きな臨時所得がないかを確認することも、全体最適化の視点から重要です。
退職金原資としての法人保険:医療法人に最適な種類と契約形態
多額の役員退職金を準備するためには、計画的な積立が必要です。その有効な手段となるのが「法人保険」です。医療法人の特性に合った法人保険を活用することで、税務上のメリットを享受しながら、将来の退職金準備を盤石にすることができます。
法人保険が退職金原資となる仕組み
- 医療法人が保険契約者となり、理事長を被保険者とする生命保険に加入します。
- 保険料を支払う期間中、その一部または全額を医療法人の損金(費用)として計上します。これにより、医療法人の課税所得が圧縮され、法人税が軽減されます(税の繰り延べ)。
- 保険契約が一定期間経過すると、解約返戻金が積み上がります。
- 理事長が退任するタイミングで保険を解約し、その解約返戻金を役員退職金の原資として活用します。
医療法人に最適な法人保険の種類と契約形態(現在の税制下で)
2019年・2020年の税制改正により、法人保険の損金算入ルールは厳格化され、「全損」で高解約返戻率の保険は姿を消しました。しかし、現在の税制下でも、医療法人の退職金準備に有効な法人保険は存在します。
① 低解約返戻金型終身保険:
- 特徴: 保険料払込期間中(例えば10年間など)の解約返戻金は意図的に低く抑えられ、払込期間満了後に解約返戻率が大きく上昇する終身保険です。
- 損金処理: 支払保険料の概ね半分が損金、残りの半分が資産計上となります(いわゆる「半損」)。
- 医療法人での活用: 支払期間中は、損金算入分による法人税圧縮効果があります。そして、理事長が退任する予定の時期に解約返戻率のピークが来るように設計することで、多額の退職金原資を確保できます。
注意点: 払込期間中に解約すると元本割れのリスクが高いです。長期的な視点での資金計画が必須となります。
② 逓増定期保険(一部):
- 特徴: 保険金額が保険期間の経過とともに段階的に増えていく定期保険です。
- 損金処理: 契約内容によって損金算入割合が異なりますが、現在の税制では、かつてのような全額損金で高解約返戻率のものはほぼありません。一部、支払保険料の2分の1などが損金となる商品があります。
- 医療法人での活用: 解約返戻金がピークを迎える時期に解約し、退職金原資とします。理事長の年齢や退任時期に合わせて、保険期間や保険金額の増額率を設計します。
- 注意点: 解約返戻率のピークアウトに注意が必要です。ピークを過ぎると返戻率が低下するものもあります。
③ 掛け捨て型定期保険(保障と一部の損金性):
- 特徴: 死亡保障に特化し、解約返戻金がほとんどない保険です。
- 損金処理: 支払保険料の全額が損金算入可能です。
- 医療法人での活用: 理事長に万が一のことがあった場合の事業保障(運転資金、後継者育成資金など)を確保しつつ、保険料を全額損金にできるため、その期の法人税を軽減できます。退職金原資の積立機能は期待できませんが、他の保険と組み合わせて活用することは可能です。
【法人保険活用における重要ポイント】
- 「目的」の明確化: 単なる「節税」ではなく、「理事長退職金の計画的な準備」という明確な目的を持つことが重要です。
- キャッシュフローとの両立: 保険料の支払いが医療法人の資金繰りを圧迫しないよう、無理のない範囲で設定しましょう。
- 「出口戦略」の設計: いつ、どのタイミングで保険を解約し、その解約返戻金を何に充てるのか(役員退職金、設備投資など)を事前に計画しておくことが不可欠です。
- 税制改正リスク: 法人保険の税務上の取り扱いは、過去にも改正されてきました。将来的に再び改正される可能性も考慮に入れるべきです。
必ず、医療法人の税務と法人保険に精通した我々のような税理士と、信頼できる保険代理店・保険会社と連携し、最適な商品選定と出口戦略を策定してください。
節税と相続を同時に狙える不動産活用との合わせ技
医療法人が不動産を保有・活用することは、役員退職金戦略と組み合わせることで、法人税の節税と、理事長個人の相続対策を同時に実現できる可能性があります。
医療法人による不動産保有のメリットと税務
医療法人が土地や建物を保有し、診療所や病院として使用する場合、その不動産は医療法人の事業用資産となります。
- 減価償却費の計上: 建物は減価償却の対象となり、毎年減価償却費を計上することで、医療法人の課税所得を圧縮し、法人税を軽減できます。
- 固定資産税・都市計画税の損金算入: 支払った固定資産税などは、損金として計上できます。
不動産の含み益の繰り延べ: 不動産を法人で保有することで、将来的に売却益が生じた場合でも、個人で保有するよりも税率が低くなる可能性があります。また、売却益を法人内に留保し、次の投資や退職金原資に充てることもできます。
「退職金×保険×不動産」の三位一体モデル
ここでは、役員退職金、法人保険、そして不動産を連携させることで、医療法人と理事長個人、双方にとって最適な税務戦略を構築する「三位一体モデル」の基本的な考え方をご紹介します。
【モデル例:理事長の引退時】
ステップ1:不動産の含み益を顕在化させ、医療法人の利益を創出
- 理事長が引退する数年前、あるいは退職金支払い時期に合わせて、医療法人が保有する不動産に含み益がある場合、その不動産を売却します。
- 売却益が医療法人の「益金」 となり、利益を顕在化させます。
- (ただし、医療法人が事業に使用している不動産を売却することは、医療提供に支障をきたす可能性があるので慎重な検討が必要です。ここでは、例えば医療法人内で収益不動産として活用していたケースなどを想定します。)
ステップ2:法人保険を解約し、退職金原資を確保
- 同時期に、医療法人が積み立ててきた法人保険を解約し、多額の解約返戻金を受け取ります。
- この解約返戻金も医療法人の「益金」となります。
ステップ3:役員退職金を支給し、利益と益金を相殺
- ステップ1の不動産売却益とステップ2の法人保険解約益によって、医療法人の課税所得が大きく増加します。
- ここで、理事長に対して多額の役員退職金を支給します。
- この役員退職金は医療法人の「損金」 となるため、不動産売却益と保険解約益という「益金」と相殺し、医療法人の課税所得を圧縮、法人税を軽減します。
ステップ4:理事長個人は低税率で現金を取得
- 理事長個人は、多額の役員退職金を「退職所得」という優遇税制で受け取ります。これにより、手取り額が最大化され、将来の生活資金や相続税の納税資金に充てることができます。
【このモデルの狙い】
- 医療法人に蓄積された利益や不動産の含み益を、役員退職金という「出口」を通して、理事長に対して多額の役員退職金を支給します法人税と理事長個人の税負担を総合的に最適化しながら、円滑に個人へ資金を移動させること。
- 法人保険で計画的に資金を積み立てることで、将来の退職金支払いに備えること。
- 不動産の流動化と法人保険の解約により、多額の現金を生み出し、納税資金や次期事業への投資資金に充てること。
【重要】
この「三位一体モデル」は、医療法人の経営状況、保有不動産の状況、理事長の退任時期、法人保険の契約内容など、個別の状況によってその効果やリスクが大きく異なります。 不動産の売却は、医療提供に支障をきたさないか、売却時期の市場価格、売却益への課税、そして後継者への事業承継計画全体と整合性が取れているかなど、多角的な視点での検討が必要です。
必ず、医療法人の税務、法人保険、不動産に精通した我々のような税理士と、信頼できる不動産会社、保険会社が連携し、綿密なシミュレーションと計画を行った上で、実行すべき極めて高度な戦略です。
医療法人社団の「退職給与規程」作成と届出の落とし穴
役員退職金を適正に支給し、税務署に否認されないためには、「退職給与規程」の作成と、その運用が非常に重要です。医療法人社団特有の留意点もあります。
退職給与規程の重要性と記載事項
退職給与規程は、役員退職金の支給に関する会社のルールブックです。この規程を整備することで、役員退職金の支給が恣意的なものではなく、客観的な基準に基づいたものであることを税務署に示すことができます。
主な記載事項:
- 支給対象者: 役員の範囲(理事長、理事、監事など)を明確にする。
- 算定方法: 功績倍率法を用いる場合は、最終報酬月額、在任年数、功績倍率を明確に記載します。功績倍率は、役職ごとの目安などを記載します。
- 支給時期・手続き: 退任時、社員総会の決議を経て支給することなどを明記します。
- 退職事由: 自己都合、病気、死亡など、退職事由ごとの取り扱いを定める場合もあります。
医療法人社団における「届出」と「落とし穴」
株式会社の場合、退職給与規程の作成は義務ではありませんが、税務上の理由から作成が強く推奨されます。医療法人社団の場合も同様ですが、特に以下の点に注意が必要です。
社員総会での承認:
退職給与規程を作成または改定する際は、社員総会での承認を得ることが必須です。
都道府県庁への届出(任意ですが推奨):
多くの都道府県では、医療法人の規程変更について都道府県庁への届出が義務付けられています。退職給与規程も、実務上、所轄の都道府県庁に届け出ておくことが推奨されます。これにより、規程の有効性がより担保されます。
「落とし穴」:形だけの規程と実態との乖離
- 不合理な規程: 規程自体が、同業他社の水準や社会通念から見て著しく高額な算定基準を設けている場合、その規程が税務署から否認される可能性があります。
- 運用実態との乖離: 規程があるにもかかわらず、その規程通りの計算をしていない、あるいは規程にない不当な高額支給を行った場合、過大役員退職金として否認されます。
- 事前の準備不足: 退職給与規程の作成を、理事長退任直前に行ったり、十分な検討なしに作成したりすると、後で税務調査で指摘されるリスクが高まります。
【対策】
- 早期着手: 理事長が現役のうちから、将来を見据えて退職給与規程の作成・整備に着手しましょう。
- 専門家との相談: 医療法人の税務に精通した我々のような税理士と相談し、適正な算定基準に基づいた規程を作成してもらいましょう。他の医療法人の事例なども参考にしながら、貴法人にとって最適な規程を策定できます。
定期的な見直し: 税制改正や、医療法人の経営状況の変化に応じて、定期的に規程内容を見直しましょう。
まとめ:「退職金×保険×不動産」で医療法人の未来を盤石に
医療法人における役員退職金は、「配当ができない」という医療法人特有の課題を解決し、理事長個人の資産形成と相続対策を最適化する、まさに「黄金の出口」 です。そして、この役員退職金を最大限に活用するための「三位一体モデル」は、以下の要素が組み合わさることで、その真価を発揮します。
役員退職金:
医療法人の損金算入による法人税圧縮効果と、理事長個人の退職所得という圧倒的な税制優遇(退職所得控除×分離課税)。功績倍率の適正化と根拠の準備が鍵。
法人保険:
退職金原資の計画的準備。現在の税制下でも、低解約返戻金型終身保険などを活用し、医療法人の資金繰りを圧迫せずに将来の退職金に備える。
不動産:
医療法人が保有する不動産の減価償却による節税効果。さらに、含み益がある場合は、退職金支給と合わせて売却することで、法人税と個人の税負担を総合的に最適化する戦略。
退職給与規程:
適正な退職金支給の根拠となり、税務調査における防御壁となる重要な規程。医療法人社団特有の届出など、適切な作成と運用が必須。
この「三位一体モデル」は、医療法人と理事長個人、双方の税負担を最適化し、将来の相続税の納税資金を確保し、ひいては円満な事業承継を実現するための、極めて高度で戦略的なアプローチです。
しかし、その複雑さゆえに、安易な自己判断は禁物です。医療法人の税務、法人保険、不動産、そして相続対策に精通した、複数の専門家(税理士、保険代理店、不動産会社など)との連携が不可欠です。
我々税理士事務所は、医療法人の特性と税務の深い知識、そして多くの成功事例を基に、あなたの医療法人の現状と将来の計画を丁寧にヒアリングし、最適な「三位一体モデル」の構築から実行、そしてその後のサポートまで、一貫してご支援いたします。
あなたの医療法人の未来、そしてご自身の人生の盤石な設計のために、ぜひ一度我々にご相談ください。
【追記】
本記事は、2025年6月末現在の法令等に基づき作成しています。医療法人の税制、役員退職金、法人保険、不動産に関する税制は、今後も改正される可能性があります。また、個別の医療法人の状況や資産構成によって、最適な戦略やリスクは大きく異なります。具体的な退職金戦略の実行や医療法人の相続対策を検討される際は、必ず医療法人の税務に精通した専門家(日本の税理士) に個別にご相談ください。本記事は一般的な情報提供であり、具体的な税務・法務・金融アドバイスを提供するものではありません。
「自分の医療法人で、どれくらいの退職金が適正なのか?」「最適な法人保険の選び方を知りたい」「不動産を活用した相続対策に興味がある」と感じている医療法人の理事長・経営者の皆様へ。
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